ナショナルデパート (岡山県・岡山市)

2014.10.01
「グランパーニュ」と名付けられた、1個5キロの大きな大きなカンパーニュ。
大きく焼いたパンを量り売りする店がなかったわけではないが、それしかしない店は、ナショナルデパートが誕生した2003年にはなかった。あれから10年経った現在でも、ない。
見たこともないほどの大きさに、多くの人が度肝を抜かれたに違いない。少なくとも私はそうだった。
食べ手にとって、それはとてつもなく大きな「パン」だった。
でもそれは、作り手にとっては「パン」であるとともに、「物語」でもあった。作り手が思い描いたのは、ひとつの大きなパンを大勢が分け合って食べるという「物語」、それはパンを巡る原風景でもある。(*)
かつてヒトはパンを分け合って食べた。自分達の遠い祖先がしていた行為にもかかわらず、現代に生きる私達にはその「物語」はとても斬新だった。見た目のインパクトに加えて、その斬新さにも心惹かれた。
「物語」の中心にある大きなパンは、外側からはただの濃茶の塊だ。でも切り分けるとまぶしいくらい鮮やかな色彩があらわれる。そのことに私達は驚き、感動すら覚えた。
驚いたのは色だけではない。みずみずしさ、素材の組み合わせ…単に物珍しいだけではなく、ひとつのパンとしても私達を魅了した。
たくさんの人が同じ思いでそれを求め、大きなパンを分け合って食べた。各地へ配送できる現代では、遠く離れた知らない者同士が分け合うこともできる。そこにたくさんの「物語」が、生まれた。
今この瞬間にも、生まれている。
次々と、作り手は新しい物語を紡いでいる。人々が分け合うのは、感動する対象はいまやパンだけではなくなっている。
次は何をやってくれるのだろうか。パンから、「物語」が広がっている。
(*)古代において、パンは生命を紡ぐために必要な食べ物であり、だからこそ人々はそれは分かち合って食べるものでもあった。「仲間」と訳される「Company」という言葉は元々「共に(com)パンを食べる(panis)」ことを意味した。
この記事を執筆したパンライター
福地寧子( 東京都 / 女性 )
年間延べ200軒のパン屋を訪れ、1日3食・年間1095食以上を食べ続けてまもなく四半世紀。パン店勤務の時期に3Kとも言われるパン屋の仕事に情熱をもって取り組む仲間達に出会い、彼等の「想い」を伝え、この仕事に4つ目のK、「カッコイイ」を付けたいと願い活動開始。現在は講座講師、レシピ提案・商品開発、コンサルティング、記事執筆等を行う。

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