「フラウクルム」という店名を聞いてピンとくる方がいらっしゃったら、それはかなりのテニス通。直訳するとMrs.クルムの意で、世界で活躍するプロテニスプレーヤー クルム伊達公子さんの監修する、ドイツパンと淹れたてコーヒーのベーカリーストアです。
取材日:2016年8月 レポーター 尾見典子
もともとパン好きで、朝食はパンとコーヒー派だというクルム伊達さん。フラウクルムは、遠征先のヨーロッパでの暮らしの中で出会い体験し感動を覚えたものを、ドイツ国籍を持つご主人のミハエル氏の協力を得て体現化したお店で、小さな店舗にクルム伊達さんのアイディアが隅々にまでゆき渡っています。モダニティな空間づくりで、ドイツで慣れ親しんだカフェ文化を少しづつでも日本人に伝えたいという想いを込めプロデュースされたそうです。
ドイツを中心としたヨーロッパ本場の味わいを再現
座る空間も作りたいと店内右手にカフェスペースを用意
自然な風合いが素敵な麻袋のオリジナルエコバッグを扱うなど「オーガニック」を感じさせるシンプルな店内は、ヨーロッパのカフェでは一般的な対面式スタイル。衛生的にも安心できる対面販売は、日本のベーカリーでも最近は増えつつありますね。アットホームな雰囲気で、お店に立ち寄り世間話をすることを楽しみに過ごす近隣の方たちにも、きっと愉しく美味しい時間を提供してくれることでしょう。
こだわりのラウゲンクロワッサン
フラウクルムでは、2種類のクロワッサンを販売しています。ひとつは、私たちにも馴染みのある、シンプルでバターたっぷり、サックサクのクロワッサン(仏産小麦使用)。同じ生地でパン・オ・ショコラ(バトンチョコ:仏産カカオ44%チョコレート)も販売しています。そしてもう一つは、ドイツ産オーガニック小麦粉を使用し、ラウゲン液を染み込ませたドイツで広く親しまれている香ばしいラウゲンクロワッサンです。甘さは控えめ、ほんわかとした香ばしさが魅力です。
ブレッツェル
ブレッツェルは、結び目に成形した生地をラウゲン液にくぐらせ岩塩をまぶし表面をカリッと焼き上げた、ラウゲンクロワッサンと並んで伝統的に食べられている南独・バーデン地方発祥のパンです。独特の形には諸説がありますが、うっかりアルカリ溶液の中に落としてしまったパン生地を焼成したところ思いがけず美味しいものが出来てしまったという言い伝えがあり、偶然からうまれたもののようです。フラウクルムのブレッツェルは、ドイツ産オーガニック小麦粉を使用した本場の味。穏やかな塩味と、表面のパリッとした歯応えに独特の香ばしさが絶品です。
食事パン系
《クルムブロート》
ドイツ産オーガニックライ麦粉100%使用の、ずっしりと重い中身のしっとりしたパン。配合は、ライ麦粉:ルヴァンデュール:水=1:1:1で自家製サワー種の爽やかな酸味が特徴です。クルム伊達さんもおっしゃっていましたが、ドイツパンの魅力は噛めばかむほど味わい深いところにあると。このパンは、ドイツの人々が食卓に好んで買って帰るような、日本人で言うところの「ご飯」のような日常のお食事パンです。
他にも、バゲットやパン・ド・カンパーニュといった定番のハード系も並びます。その中でもオススメは、パン生地(ライ麦50%小麦粉50%)にオーツ麦、ひまわりの種、白ゴマ、亜麻仁を混ぜ込み焼き上げた「ロッゲンザフトブロート」です。表面がかぼちゃの種でぎっしり覆われ、穀物が贅沢に盛り込まれたパンです。
朝食の定番「カイザーロールセサミ」「クレセント」(ポピーシード/セサミ)に具材を挟んだサンドイッチも数種揃い、今後はライ麦パンのサンドイッチメニューも予定しているとのこと。ショーウインドーに並ぶサンドイッチはドイツパンの愉しみ方の提案にもなっています。
そのままで美味しくたべられる菓子パンは、甘くて柔らかいのでランチのデザートやティータイムにもぴったりです。ドイツでとてもポピュラーなシュトロイゼルクーヘン(そぼろケーキ)はプレーンとシナモンの2種類で、天板いっぱいに広げ焼き上げます。果物をのせたデニッシュはパンが甘み控えめにつくられ、フルーツ本来の酸味が際立ちます。ラウゲンスタンゲンにジャムを挟んだおやつパンも人気が出そう。クルム伊達さんセレクトジャムは2種類。「島のせとかと柚子のドルチェマーマレード」 「瀬戸内ブルーベリー」でどちらも種子島産洗双糖のみで煮込んだジューシーな手作りジャム。
クルム ドリップコーヒー
パンとともに淹れたてのコーヒーやフレッシュジュースも楽しめます。コーヒーは「東京で本当においしいコーヒー店10選」にも選ばれているHORIGUCHI COFFEEよりクルム伊達さん自身で厳選した豆をブレンド、フラウクルムオリジナルのドリップコーヒーを店内・持ち帰りともに利用できます。ドリップマシンはアメリカ・カーティス社を採用し、日本でまだここだけにしかないというスタイリッシュなフォルム。日替わり「本日のコーヒー」もあるので店員さんにたずねながら相性のいいパンを選ぶのもいいですね。
オープン後訪ねたとき、ホッとする出来事がありました。近隣にお住いと思われる女性が「昨日確認したの。同じだったわ!」と棚に陳列された角食パンを手に取りスタッフの方に伝えていました。「だから今日また買いに来たの。」と。そうです、この場所は、先月までブーランジェリーロブがありました。女性は、食べ慣れたパンがしばし無くなり寂しい気持ちであったに違いありません。そしてその次に入店した若い女性は、ショーケースを一通り眺め、やはり山型食パンを一つだけ購入して帰りました。馴染みのパンを見つけ、また来てくれることでしょう。フラウクルムになりお店のコンセプトは変わりましたが、ロブさんからのお客様のこともきちんと考えてくれていました。焼き立てのパンと淹れたてのコーヒーで至福の時間を。日本にも、焼き立てのパンを食べる習慣を根付かせたいというクラム伊達さんの想いが広がる気配を感じました。