樹齢100年近い「ヒマラヤ杉」とその隣にあるみかどパン店は谷中のシンボル的存在
通称「谷根千」散歩。ノスタルジックな街のイメージを持ちJR日暮里駅からも程近い谷中・根津・千駄木ですが、今や日本人ばかりでなく外国人観光客も多数訪れるというちょっとした人気スポットです(特にフランス人に人気なのだとか)。実は、なかなかホットなパンエリアでもあるんですよ!素敵なギャラリーやショップをのぞきながら、美味しいパン屋さんをたずねてみませんか?
訪問日 2018年9月 レポーター 尾見典子
根津のパン
2018年8月15日オープン。このお店はもともとお豆腐屋さん(根津とうふ工房須田)だったところを、佇まいそのままにパン屋として営業しているそうです。風情がありますね。こちらのオーナーは、ついこの間まで「上野桜木あたり」内のパン店カヤバベーカリーに勤めていた方で、この度独立開業しました。同じエリアでのオープンは、地域の常連さんにとっては嬉しい限り。さらに、遠方からも噂を聞きつけたお客様で毎日賑わっているようです。
午前中に伺うと、既にランチタイムに備えて準備万端、厨房入り口に見えるラックにも、沢山のパンが焼きあがっていました。冷蔵のサンドウィッチ以外は対面方式で、レジに連なる列に並びながら購入するパンを決めていくスタイルです。小ぶりながらどれも魅力的なパンばかりで、列が進まないとその間に迷ってしまいそうです。
店内に入り向かって左壁側には焼きたての食パン類が、目の前の平台には王道のバゲットが横たわっています。その隣に惣菜系や菓子パン、おなじみのミニシリーズなどデイリーに利用できるパンが並びます。中央には見覚えのある”七味チーズ”や、ああ、ミルクフランスもありますよ!サンドウィッチは人気のようです。昼過ぎには完売の可能性 大 ですのでランチタイム利用の際はどうぞお早めに。
根津のパン
所在地 / 東京都 文京区 根津2-19 -11
定休日 / 月曜日
営業時間 / 10:00-19:00
VANER(ヴァーネル)
店舗外観 昭和13年に建てられた古民家をリノベーション
さて、上野桜木あたりの現在が気になるところですが、既に新しいパン店「ヴァーネル」がオープンしています。店主の宮脇さんは、修行先のオスロで本場の北欧パンに魅せられ、一旦は永住するつもりでいたそうですが、縁あってこの谷中の地でサワードゥの魅力を伝えるべくベーカリーを開業しました。ノルウェーから小麦を輸入して国内で石臼挽きし、サワードゥ発酵させ焼き上げたパンを販売しています。
商品はいまのところ4種類です。「サワードゥブレッド」「サワードゥブレッドバンズ」、編んで丸めたような独特の形が目を引く「サワードゥシナモンロール」と「サワードゥカルダモンロール」。パンのお供の珈琲は、やはりノルウェーから輸入しているというFuglen(フグレン)の豆を販売しています。
オーランド小麦、(スベーシェ)ライ麦、エンマー小麦、スペルト小麦
レジ脇には4種類の小麦粒の見本が置いてあり、興味を示しているとシェフ自ら自身の手がけるパンについて、それから現地(修行先オスロ)での経験談など、書籍を出して見せてくださったりしながら丁寧に説明してくださいました。
「サワードゥ」の学びには欠かせなかったバイブルが並ぶ
北欧で育てられた3種類の古代小麦とライ麦。紀元前から親しまれている小麦を使い原始的な製法で作られるそれらのパンは、どれもずっしりと滋味深く栄養豊かで複雑な味わいです。これからの季節、ポトフやスープ、シチューと合わせてみたい、料理に寄り添うような食事パンです。ハード系に目がない方もそうでない方も、ヴァーネルのパンで褐色の魅力を存分に味わってみてください。
珈琲はその場で飲めるようテイクアウトにも対応しています。施設一帯は、縁側のような場所があり、そこで、購入したパンを落ち着いていただくことが出来ますので、珈琲とシナモンロールでベンチタイムを過ごすのも良いと思います。訪問時はちょうど、日本テレビ「every」の取材が潜入していたタイミング。メーンキャスターの陣内貴美子さんやスポーツキャスターの山崎誠アナウンサーがお店のパンを個人的に気に入り、自分用や局の皆にとたくさん購入していました。これから注目のお店です!
こちらの案内板が頼りです 電柱に掛けられたサインボード
谷中キッテ通り
”キッテ”と聞くと、東京駅近くにある商業施設「kitte」を思い浮かべる方も多い事でしょう。谷中「キッテ通り」は、元々は名も無い通りでしたが、そこに集まった個性溢れるお店の方々が、この通りの魅力をもっとたくさんの方に知っていただきたいと、愛称を募集し「キッテ通り」と名付けられたのだそうです。通りには、谷中郵便局やレトロな切手屋さんがあり、地域のシンボルから生まれた名前。たくさんの人に来て(kitte)いただきたいとの願いが込められています。
Succession(サクセション)
キッテ通り中程にあるベイクショップ。こちらは、パンも販売する焼き菓子屋さんです。店内に広く取られたカフェスペースには大きなテーブルがひとつ、ショーケースの一番目につくところにシナモンロールが並べられていました。パンを買いに来たのに、ガトーショコラやベイクドクッキーにもついつい手が伸びてしまいます。自家製ジンジャーエールをいただきながらちょっと一休みしましょうか。
ガラス窓で仕切られた厨房からは、作業の様子が垣間見えます。真っ赤なBRUNOのトースター、壁際に行儀よく置かれたパン、まるで何処かのお宅のリビングで過ごしているようなアットホームな店内です。
パン・ド・ロデヴ
焼き菓子がメインのお店にパン・ド・ロデヴがあるなんて!しかも毎日午前中に焼き上げているそうです。パン・ド・ロデヴのグレーがかったその内相は、ほんのりとした酸味があり、大小不揃いな半透明の瑞々しい気泡が特徴。多加水で口溶けが良いので、これまで口にしたフランスパンとはまた違った新しい食感です。「ロデヴ」はフランスの南部にある山あいの小さな町の名前です。そこから生まれたパンが、いま日本で静かに広がっています。
シェフの岩本さんは、もうだいぶ前からロデヴを作り続けているそうですが、きっかけは、日本にパン・ド・ロデヴの製法を広めたパン業界の重鎮、仁瓶利夫氏の本に出会った事によるものだったそうです。成形せずに作りあげ、酵母とパン種を合わせてその良さを醸し出す、素朴なロデヴの魅力を日々伝えておられるようでした。少しこんがりしたところはオリーブオイルをつけて、あっさり目のところにはバターを乗せて、また、くるみ入りのクリームチーズや蜂蜜とも相性が抜群です。ぜひ一度お試しくださいね。もちろん、和食でも、洋食でも、どんなお料理にも合わせることが出来るのが、パン・ド・ロデヴの魅力でもあります。
外deパンランチにも最適なチャバタを使ったサンドウィッチ
ショーケースには、チャバタに挟まれた季節感のあるサンドウィッチが揃っていました。パン自体が美味しいですのでこちらもオススメです。サクセションとは「継承する」という意味が込められているそうで、岩本さんがこれまでに学んで来た食の色々、何かいいものをこれからも谷中の皆さんに伝えていかれるのではないかと感じました。
戦火を逃れた日本家屋が多く残り散歩するだけでも楽しい谷根千エリアですが、いつの間にか、美味しいパン屋さんが静かに溶け込んでいました。ご紹介した以外にもまだまだ気になるパン屋さんがあるんですよ。昭和レトロの街並みも情緒があって歩いていても楽しいです。ぜひ、カメラ片手にパン屋さん巡りに出かけてみてくださいね。
*谷根千をご案内くださいましたR.Sさまにこの場をお借りして御礼申し上げます。